「おい、薫。玄関の前に何か落ちてるぞ」
出稽古からの帰宅。門をくぐると。
薫と並んで歩いていた弥彦が、
それに気づいた。
駆け寄って拾い上げた手紙に、弥彦は首をひねる。
「これ、昨日の朝お前が見つけたのと同じじゃねーか」
「ええ、そうみたい。また宛名も差出人も書いてないわ。変ね」
訝っているのにも関わらず
手紙を見つめる薫の顔には
感情の起伏が見られない。
気味悪がる とか
眉をひそめる とか。
かさかさと音をさせながら
白い手紙が開けられる。
一緒においで、君を待ってる |
「・・・っ痛・・」
ちくりと痛んだ目を押さえ
薫は微かに呻き声をあげた。
━━━この白さ 目にしみる━━━
「おい薫、大丈夫か?」
「ええ、なんでもないわ、大丈夫」
「それにしても妙な手紙だな。誰がなんでこんなことするんだ?」
「さぁ・・・・なんでかしら」
「なぁ薫。本当にお前、心当たりは無いんだろう?」
「ええ、無いわ」
「こんな所で、どうかしたのでござるか?」
玄関先に佇んでいた薫と弥彦の背後から
剣心の声が聞こえた。
剣心の手には買い物袋、
その中から大根がはみ出している。
「お帰りでござる、薫殿。出稽古お疲れ様」
「ええただいま。剣心もお帰りなさい。買い物に、、、行ってたの?」
「ああ、そうでござるよ」
「また変な手紙が届いたんだよ」
「また、でござるか?」
「ああ、やっぱり宛名も差出人も書いてないんだ」
「中身も一行だけ?」
「そう、一行だけ。多分剣心が買い物に出てる間に置いていったんじゃねーか?」
「ふむ。恐らくそうでござろうな」
「とにかく、中に入りましょう。お腹もすいたし」
「ああ、そうしよう。すぐに夕餉の支度に取り掛かるでござるよ」
「剣心、今日の夕飯はなんだ?」
「いい大根が手に入ったから、田楽にでもするでござるよ」
「やった!」
いち早く家の中に消えていった弥彦に続いて
玄関に入ろうとした薫を
剣心が呼び止めた。
「薫殿。その手紙の主に、心当たりは無いのでござろう?」
「ええ、無いわ。剣心も、無いんでしょう?」
「ああ、無いでござるよ」
薫を見つめる剣心の目が苛立ちに歪み
奇妙に細められたのを
薫は背中で受け流した。