誘惑 弐







どこまでも白い

真っ白い



その白さ 目に痛く



胸をかすめる 罪悪感



罪悪感!?



やましいことなど





なにひとつ






















いずれにせよ





薫はしらを切ったのだ





















「おはよう。剣心」

「おはよう。薫殿」




あたたかい湯気の 空気

味噌汁の 匂い

規則正しい

包丁の





「よく眠れたでござるか?」


振り返った瞬間に

弧を描いて揺れる

紅い






「ええ、よく眠れたわ。剣心は?」

「ああ、拙者も、よく 眠れたでござるよ」









絡んだ視線に「意味」を見出す事はせず

決してせず


















「御免なさいね。いつも朝ご飯つくらせちゃって」

「いやなんの。これが拙者の仕事でござるから」














感じる「熱」を意識する事は無く

決して無く










「もうすぐ出来上がるから、居間に運んで食べよう」

「ええ。私も手伝うわ。そう言えばね、剣心」










「手紙が届いたのよ」










どこまでも白い

真っ白い

その白さ 目に痛く





まるで責めているような


責める!?






責められるいわれなど












「手紙、でござるか?」

「うん、多分」

「多分、とは?」

「それがね。宛名も差出人の名前も無いのよ」

「それはまた面妖な」

「中身もね、一行しか書いてないの」

「一行?」

「そう一行」

「なのに薫殿は『手紙』だと?」

「・・・・・・・・」

「宛名も無い、差出人も分からない、たった一行の文章を」

「・・・・・・・・」

「薫殿は『手紙』だと?」









「やっぱり誰かのいたずらね、きっと」

「文面はなんと?」

「たいしたものじゃないのよ。意味もよく分からないし」

「文面にはなんと?」

「・・・・・・・・」









「ここまでおいで、君を待ってる。って、書いてあったわ」











白い和紙を、幾度か折りたたんだだけの

およそ手紙とも呼べぬような
























「あとはこのお浸しだけ?」

「ああ、それで全部でござるよ」



最後のおかずを食卓へと運びながら

薫は襷がけを外している剣心を振り返った。








「あの手紙、剣心も、心当たりは無いんでしょう?」




俯いた顔を覆う紅い髪

隙間から見上げた、色素の薄い瞳








まるで責めているような









「ああ、無いでござるよ」











ま る で 狸 の 馬 鹿 し 合 い