『背中』









久しぶりに晴れ間が覗いた穏やかな冬の一日。
毎日どんよりとした雲に覆われ、雪が降ったり雨が降ったり。
はっきりしない天気ばかりだった。
神谷道場の主夫こと緋村剣心は溜まりに溜まった洗濯物をここぞとばかりに洗い始めた。

「ねぇ、けーんしーん」

「なんでござる?」

「私も手伝うってば〜」

「駄目でござる」

「如何してー!?二人でやれば早く終わるじゃない!」

「剣路を一人にするわけにはいかぬだろう」

「今お昼寝してるから大丈夫よぉ」

「兎に角!薫殿は其処に座っているでござるよ」


さっきからこの調子だ。
いくら薫が手伝うといっても剣心が首を縦に振らない。
おまけに縁側に顔を向けることすらしない。


(真冬のこんな冷たい水で薫殿の美しい手にあかぎれなど作ったらいかんでござる!)


一人決心する男が此処に一人・・・。
こんなことを考えているなど恥ずかしくてずっと縁側に背を向けて一心不乱に洗濯物を片付けている。
さっきから薫は剣心の背中しか見ておらず少々不機嫌になってきた。
縁側に腰掛け、太股に肘を乗せ掌に顎を乗せてじっと剣心の背中と睨めっこ。


小柄な体躯な剣心だが、意外と広い背中を持っている。
身長はさほど変わらないのにやっぱり男の人なんだなぁと実感してしまう。
薫が好きだった緋色の長い髪を切ると言い出したのはいつだっただろう。
長い髪に指を絡ませて、そっと撫でるのが好きだった。
今では肩の上で切り揃えた緋色の髪が時折吹く風にさらりと揺れる。
綺麗だな、なんてぼんやりと考えていると視線に気づいた剣心が溜まらず振り返った。


「薫殿・・・そんなに睨まないで欲しいでござるよ(汗)」


苦笑しながら縁側へと腰を下ろす。洗濯が一段落ついたようだ。
お疲れ様、と薫は笑顔で剣心を迎え、冷たくなった手を自分のそれでそっと包んだ。
はーっと息を吹きかけるとぴくりと剣心が反応したが気にせず自分の手と剣心の手を擦り合わせる。


「寒かったでしょ?今暖かいお茶、煎れてくるわね」


立ち上がり手を離そうとすると剣心は其れをやんわりと制した。


「薫殿の手のほうが暖かいでござる」

「・・・//」


今度は剣心が薫の手を包み込むように握り締めた。
久しぶりの穏やかな日差しと薫の体温。安心する、自分の居場所。
そっと瞳を閉じると柔らかな感触で包まれている自分がわかる。
ふと薫の手が剣心の手の中から抜け出した。はっとして瞼を開けると今度は頬に薫の手があった。


「剣心てば眠くなっちゃったの?」


目を瞑り動かなくなった剣心を覗き込むようにして見つめる薫。
少し心配そうで少しむっとした表情で。
思わず剣心が吹き出すと薫は頬をぷぅと膨らませて拗ねた様子を見せる。
まだ幼さの残る薫の表情に剣心は満面の笑みで答える。


「・・・やっと笑ってくれたね」

「おろ?」


ずーっと背中向けてるんだもん、と微笑みながら薫は言う。
剣心は困ったような照れたような表情を見せた。


「私ね、剣心の背中好きよ?」


勿論笑顔も好きだけど・・・と言いながら薫は立ち上がると剣心の後ろに回った。
膝をつき両手を剣心の背中に押し当て、頬を摺り寄せた。


「暖かくて、広くて、・・・剣心の匂いがする・・・」


背中に感じる薫の感覚に剣心の意識が集中する。
祝言をあげ、剣路という子供も授かってるというのにこの気持ちだけは留まることが無い。
互いを必要とし、愛し愛される。
その気持ちは此れからもずっとずっと、続いて行くのだろう。


「薫殿・・・」

「ん?」

「振り向いても良い?」

「・・・ん・・・もう少し・・・このまま・・・」


暖かい日差しと剣心の体温で心地良い。薫はうとうとし始めてしまった。
剣心はそろりと首だけ後ろに向けてみた。案の定薫は浅い夢の中。
起こさぬように身体を廻し薫の頭を自分の膝に乗せ膝枕の格好をとった。
幸せそうな幼な妻の顔を眺めながらその美しい黒髪を優しく撫でる。
さらり、さらりと心地良い感触が剣心の手に伝わる。


「クス・・・暫く寝かしておいてやろうか・・・」


安心したのかすっかり寝入ってしまった薫の頬に軽く口付けを落とすと
自分も柱に身を任せゆっくりと瞳を閉じた。










さらり

少し冷たい風に乗って長い黒髪が揺れる

さらり

呼ばれたように短い緋色の髪も揺れる




互いの心地よい空気と安らかな寝息が二人を包んだ
二人が目を覚ますのはもう暫くは先のこと・・・










**あとがき**
かたつむり様、遅くなってしまって申し訳ありません(汗)
お約束のブツ、ようやく仕上がりました・・・。
なんか題名に沿ってない・・・?
こんな駄文になってしまってすみません・・・。
かたつむり様のサイト名が『うしろの正面』だったので
如何してもそれにちなんだものが書きたくて・・・
私、個人的に男の人の背中って大好きなんですよぉ(にやり)
ということで出来上がった駄文です。

TOP絵のお礼とこの間の密会(?)のお礼と言うことで・・・。
受け取ってもらえたら嬉しいですv

此れからもお世話になるかと思いますが宜しくお願いしますv




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『TRAP』の管理人、倫さまから頂いてしまいました・・・!
実は倫さまとは同郷でして、しかも倫さまのお住まいが
私の通っていた高校のすぐ近くだというおまけつき・・・(笑)
年末に実家に帰った際にお昼をご一緒していただいのです。
で、そのときに倫さまが小説を書いてくださるという実に有り難い約束をしてくださいまして・・
このように素晴らしい小説をゲットできたというわけなのです(ニッコリ)
こちらの小説を読んだときに思わずニタァ〜と口元が緩んだのは私だけではないはず・・
しかも拙宅の名前にちなんだお話を書いてくださったというではありませんか・・・!
ああ嬉しい・・・(T_T)

倫さま、この度は本当に有難うございました。
こちらこそ今後ともよろしくお願い致します・・!







モドル