人を殺すってことがどういうことか
実はよくわからない。
人を殺したってことがどういうことか
ちゃんとわからない。

今、穏やかに笑う剣心の、その手が、
日本刀を握り締め。
命を請う人の胸を、容赦なく突き刺した。
10数年前のこの人は、間違いなく、殺人者だった。

奇麗事なんかではない。
そんなことでは有り得ない。

かつては人の肉を抉り、骨を断ち切ったその手が
逃げる人の背に追いすがり、刀を振り下ろしたその手が。
今、食事を作り、薪を割る。

誰かを殺し、誰かを救う。

そんなことが。

奇麗事なんかであるはずは、絶対に無い。

そういうことがちゃんと、理解出来たら。
私に理解出来ていたとしたら。

私たち二人が一緒に居るということが、可能なわけは無かった。







隠蔽









わかっていたのかわかっていないのかという二者択一ならば、私は間違いなく「わかっていなかった」。 目の前にあるご馳走に目が眩んで、その食事が持っている毒に気が付かなかったようなものだ。 毒と言う表現はおかしいかもしれない。そんな、殺傷力のあるものではない。私が一人で傷ついて、 一人で慌てているだけだ。彼にはなんの罪も無い。

「薫殿・・?」

手渡そうとした湯飲みをはねのけられて、剣心が目を丸くしている。ぶちまけられたお茶が、 畳で湯気を立てた。
ああほら。だから。貴方には何の罪も無いのに。そんな、諦めたような目をしないで。

「・・・薫殿・・・?」

ゆっくりと伸びてきた右手が、頬に触れようとしている。かつては、人の肉を抉った、その手が。
生ぬるい体温が、頬に伝わった。
生きている。この人は生きている。
死んでいく人間と、生きていく人間と。
強い者が生き、弱い者は死ぬという自然界の摂理を完全に否定しながら、この人のやってきたことはそれを 地で行くようなものだ。新時代を切り開くと言う信念を刀でもって実行してきたことが、弱肉強食とは 違うなんて、どうして言えるだろう?

「薫・殿」

呼ぶ声が、段々と狂気じみていくことにも、不思議と違和感は無かった。




いつか私が思い知る時が来ると、この人は最初からわかっていたに違いない。
そして何を思い知ったからと言って、私が何処へも逃げ出せないことも。
時が経つにつれて私が何をどんなに理解し始めようとも、
結局最後には緋村剣心への恋慕の情が残るだろう。
そしてその僅かに勝った恋心のために、
私は他のどんな醜い事実にも目を瞑ってしまえるだろう。

誰より私が一番、愚かだ。






奇麗事なんかじゃない。奇麗事なんかであるはずが無いのだ。
緋村剣心という人間と、生きていくということが。







気づき始めた私の目に、伸ばされた剣心の手が映った。














ネタ的小話(ネタなだけに断片的←致命傷)
いつか全て漫画で描いてみたいという野望があったりなかったり。
いや、いつか必ず描く・・!
(ネタだけは浮かんでくるわけね・・・)